MAGICA・キャラクターによるゲーム紹介
舞台編@
2010.9.2



(真っ暗闇の中。そこが、どこなのか、判別がつかない)


(一箇所のみ、光のもれている場所がある)


(一輪の、小さな花)


(わずかな光を放っているのは、その花のようだった)



「………」

「………」





(花の両脇に、ひとりずつ…ふたつの人影)


(リリィとアーウィン。花の姿を、ふたりはみつめていた)





「エスティーン!」

「来ました…」





(呼びかけるふたり)


(ふたりの声に、反応するように…花が、かすかに揺れた)


(あたりに、ふたりのものではない声が響く)





「アーウィンと、リリィだね」



「はい」

「やっぱり、この花だったんだね。
 光って、めだってたから…そうじゃないかと思ったんだ」





(花の根が、茎が、急激にかたちをかえはじめる)


(やがて、肥大化した、花のつぼみのなかから…ひとつの、顔があらわれた)


(あらわれた顔が、ふたりに呼びかける)





「こんにちは、ふたりとも」



「こんにちは」

「こんにちは。…ミルは、いないの?」

「まだ来ていないと思うよ」

「ありゃ…そうなんだ」

「さっきまで、少し眠ってはいたけれど…今日ここに来たのは、君たちふたりが最初だね」

「困ったなあ…ミルがいないと始められないのに!」

「…やっぱり、一緒に来ればよかったかな」

「いや、大丈夫だよ」

「え?」

「今日ここで話すことは、君たちふたりに聞かせたいと思っていたことだからね。
 あの子はいても、いなくても、どっちでもかまわない。
 …待っているのも退屈だろうから、先に始めてしまうのも、いいかな」

「そうなの?」

「そうなのです」





(暗転)





「エスティーンさん。…質問しても、いいですか?」

「かまわないよ」

「ここは、どこなんでしょう?
 転送装置から来たのは、確かだけど…僕には、はじめて見る場所で」

「ん。そういえば私も、はじめてだな」

「そうなんだ…」





(アーウィン、周囲を軽く見回す)


(それを見たリリィも、きょろきょろと、あたりをうかがう)





「ここは、私たち森の一族の…記憶の、倉庫」



「『きおくのそうこ』?…そうこって、倉庫?」

「その倉庫。私たちは、他の皆よりも、ずっと長く生きるからね。
 持ち切れなくなった思い出や、使わなくなった知識を種子にして、うずめておくんだ」

「種子…」

「うずめておくから、倉庫?」

「その通り。
 私はこの森にいるときは、この森だし…この森は、私がいるときは、私になる。
 ここに来れば、ここにうずめたものは、つぼみが開くように、思いだすことができるのさ」

「どれくらいの広さがあるのかも、ちょっと、僕には分からないけど…」

「はじっこが見えないもんね!」

「…ちょっとずれてる気がするけど、そうだね。
 この森の全部が、エスティーンさんだっていうことなんですね?」

「本来は、森の一族すべてが、同じくひとつなんだよ。
 …もっとも、ここは久しく、私の他の誰もが訪れてはいないようだけど」



「………」



「アーウィンが考えこんでる。エスティーンの言うことは、いつも難しいね」

「そう。難しいのさ。
 ただしそれは、君たちふたりが、まだ生まれたばかりだからなんだ」

「…それだけは、よく分かります」

「でも、私はアーウィンよりも、お姉さんだからね!」





(どん、と胸を叩くリリィ)





「…すごく、そう呼びたくない…」

「そうだろうねぇ…」

「なんでさ!」

「どちらにも、まだあまり違いがないからだよ。
 今日は、ふたりに私の知っていることをわかりやすく伝えるために、ここに呼んだんだ」

「違いはあるよ!私のほうが先に生まれて、あちこち旅してるんだから」

「そういう意味でならば、確かにリリィ、君がお姉さんになる。
 今から見せる、いろいろなことで…アーウィンに難しいことがあったら、きちんと教えてあげるんだ」

「…???」

「私の伝え方では、なかなか伝わりにくいことも、あるだろうから。
 そういう時は、アーウィンに分かりやすいように君が伝えてあげるといい。
 それは、お姉さんの役目で、君にしかできないことじゃないかな?」

「そっか。…そうだね!」

「うん。…さあ。そろそろ、始めようか」



「(この人は、やっぱり凄い人なんだ…)」





(暗転)





「ふたりとも、ごらん」





(エスティーンを中心に、足元の草花が、光を帯びはじめる)


(ぼうっとした光の中に…かたちが、浮かび上がっていく)





「これは…」

「地図、かな?」



「そう。これが、私達がいる大陸の、すがたかたち。
 目で捉えやすいように、実際の姿を、そのまま小さくしてある」





(光の輪の中に、ときおりゆらめきつつ…ひとつの大陸のかたちが、できあがっている)





「リリィはある程度、この大陸の特徴を把握できているよね。
 アーウィンに、簡単でいいから説明をしてあげてくれるかな」

「あれ?私がやっていいの?」

「明らかに間違っていたりすれば、訂正はするけどね。
 ひとまずは、好きにやってごらん」

「オッケー!」





(リリィ、こぶしを突きあげる。そのまま、ぱたぱたと駆け出す)


(大陸の端、大小の島々が並ぶ地形。その横で、立ち止まった)





「アーウィン!ちょっと、ここまできてみて!」

「う、うん」





(リリィの側まで歩くアーウィン)


(リリィが、満面の笑顔で、ひとつの島を指差した)





「ここがね、私たちがいた島だよ」

「…確かに。この辺りが、町だね」

「うんうん」

「こうやって見てみると…ものすごく、小さな島だな」

「見れば、わかるとおもうけどね。このあたりは、こんな感じの島がいっぱいあるんだよ」





(リリィが、両手を広げる)





「こういうのを…郡島地帯って言うのかな。
 見ただけだと、全部でいくつの島があるのか分からないね」

「そういう呼び方も、するときがあるね」

「それで、アーウィン。
 この大陸はね。南側が、ほとんどぜんぶそんな感じでしょ」

「うん。…だいぶ、広い範囲になるね」

「こんな感じになっているところを、まとめて『教国』って呼ぶの」

「きょうこく…」

「教国。教えの国と書いて、教国さ」

「…つまりは」





(アーウィン、改めて郡島地帯を見回す)





「………」

「人間の国の事情については、ミルが来てから、話したほうがいいだろうね。
 今は、リリィの話をちゃんと聞いておこう」

「…はい」



「アーウィーン、ってば!」





(リリィの声が、離れたところから響く)


(慌てて振り返るアーウィン)





「ちゃんときいてるー!?」

「ああ…うん。ご、ごめん」

「まったくもう。よくわかんないところでボーッとするんだから。
 …ほら、こっち!」





(大陸の北側。比較的平坦な地形に、リリィが立っている)


(リリィの手招き。アーウィンが駆け寄る)





「このあたりが、『主国』ってよばれてるところだよ」

「『主国』…これは、分かるな。
 行ったことはないけど、ミル達の話にも、よく出てくるからね」

「うん!」

「警団の本部は、ここにあるからね。
 それだけでなく、さまざまなものが、この平原地帯にはある。
 人間たちの生活の基盤が、ここになっているんだね」

「本部の近くにも、つるつる庵があるんだよ!」

「そうなんだ…」

「うどんは美味しいよね」

「おいしいよね!うど…」

「うどんの話は、ともかくだ。
 リリィ。ひとまず先に、説明を済ませてしまおう」





(大口を開けたまま、固まるリリィ)





「………ほぁ〜い」





(口を開けたままの返事)


(ぐわっちん…と口を閉じる、リリィ)





「(凄い声だ…)」



「アーウィン」

「あ…うん」

「国の、名前についてはわかった?」

「北の、平原地帯が『主国』で…もうひとつは、南の郡島地帯の『教国』だね」

「その通り。特徴は、理解できたみたいだね」

「つまりは…この大陸は、大きく分ければ、ふたつの地域で構成されてることになるのか」

「それはちがーう!」





(リリィが、体全体を震わせる)





「違うの!?
 …でも、そのふたつしか、話には出てきてなかったけど」

「今から、最後のひとつを説明するんだよ。さきばしるなっ」



「(…まさか、リリィにその台詞を言われるとは思わなかった)」



「アーウィンが、不満そうな顔をしている」

「!
 …い、いえ……気のせいです」

「まあ、そうしておこう。
 それじゃあリリィ。最後のひとつの説明を、よろしくね」

「はーい!」





(リリィ、大陸の東側に向かって駆け足)





「アーウィン、ちゅうもく!」

「うん。…ずいぶんと、険しい地形みたいだね」





(平原地帯の端から、森林が広がっている)


(その、ちょうど中央あたりに、いくつかの高い山がつらなっていた)





「このあたりはね」

「…うん」

「ずうっと昔から、ほとんど人間が住んでいない場所なんだって」





(アーウィン、改めて山岳地帯を眺めている。リリィもそれにならう)





「確かに、険しい場所だけど。結構大きい川も、いくつかあるな…。
 何か、人間が住めない理由でもあるのかな?」

「そのあたりの山は、ずっと昔、ほとんどか火山だったのさ」

「火山…」

「火をふく山のことだよ」

「…うん。それは分かる」

「そういう、立地もあってね。
 この辺りには、人間以外の種族の生き物たちが、たくさん住んでいる」

「ああ…なるほど。
 だから、人間もここには入っていかないんですね」

「そういうこと。物の怪の類も多いけど、それ以外の種族も多い。
 アーストやナナの種族も、起源を辿れば、おそらくここになるだろうね」

「それじゃ、エスティーンは?」

「私自身が、ここの森を活動の拠点にしていたことがある。
 離れて久しいけれど、たぶん、私とは違う名前の誰かが、今も住んでいるんじゃないかな」



「ちがう、なまえ…?」



「さっきも軽く話したけれど、森の一族は、もともとひとつ。
 便宜的に名前を名乗るけれど、それ自体は、私たち自身には意味が薄いことなんだ」



「ううーん…」

「やっぱり、難しいです」



「そうだね…。
 言い替えてみれば、私の、エスティーンという名前は、あだ名のようなもの。
 本当の名前とは違うけれど…周りには、そのほうが分かりやすくて、便利だということかな」



「あだな!」

「やっぱり、よく分からないけど…。
 今の名前が「エスティーン」さんだって、そういう考え方でいいんでしょうか」

「それでいい。そうお願いするよ。
 少なくとも、みんなにそう呼ばれるのは、嫌じゃないからね」



「もっと可愛いあだなのほうが、いいんじゃないかなっ」





(リリィの目が輝いている)





「それは、考えたことがなかったかな…」



「私が考えてあげようかー!」





(リリィが両手を勢いよく、ふりまわしている。鼻息も、とてもあらい)





「(なるほど…。リリィも、やってみたかったんだな)」



「あだ名を考えるのは、年長者の特権さ」

「ええ〜〜〜」

「それ以前に、本人が気に入るかどうかという問題もある。
 …ま、考えるのは自由。提案だけは聞くよ」



「………」





(リリィの目が、ふたたび激しく輝きはじめた)





「じゃあ、すごくいいのを、考えるよ!」

「そうしてみるといい。…考えるのは、自由だからね」



「(繰り返した…)」






(座りこんで、ぶつぶつと、何かを考え始めるリリィ)


(エスティーンが、アーウィンのとなりまで、もぞもぞと移動する)





「さて、ちょっと脱線したね」

「あ…はい。
 山岳地帯の話でしたね」

「人間のように、国という形は取っていないけど…。
 住み分けとしては、形は成立しているから
 人間たちは、この辺りをひとつの国のようにあつかうときがある」

「自分たちの形に、当てはめて…ってことですよね?」

「そういうことだね。その場合は、他ふたつの国と同じように『古国』と呼ぶんだ」

「『古国』…。古い国、ですか」

「うん。他には、教国の人間たちの一部が『秘国』と呼ぶことがあるね」





(しばしの沈黙。アーウィンが、ゆっくりを口を開く)





「…呼び方が、いくつもあるんですか?」

「今では、この呼び方は、それほど一般的ではないようだけどね。
 教国の人間たちは、古くからこの呼び方を使っていたから、その名残があるんだ」

「どっちも、同じ場所のことを言ってるんですよね?」

「うん。ただし、そのどちらも、人間が決めた呼び名だということは、憶えておいて欲しい」

「ん…?」

「アーストやナナのように、ここから人間の国へ出てきた種族には
 その種族なりの、故郷への呼び名を持っていることがあるんだ」



「あ…なるほど。エスティーンさんの場合は、森ですね」





(エスティーンの根元にあった、小さな花のつぼみが、すっとひらく)


(そこから、明るい光が放たれ、あたりを照らした)





「そういうことなんだ。
 滅多にないことではあるけど、『古国』『秘国』という呼び方は
 相手によっては、失礼な言い方になることも、あるっていうことさ」

「わかりました。…憶えておきます」





(満足そうにうなずく、エスティーン)







(暗転)





「…さて」

「…はい」

「…これで、この大陸の現在のかたちについては
 一通りの説明を、すませたわけだけど…」

「………」





(周囲を確認するように、あちこちをきょろきょろとするエスティーン)





「結局、ミルは来なかったね」

「僕も、それがちょっと気になってました…」

「まったく、どこをほっつき歩いているんだろう」

「転送装置から、ここにすぐ来られますし…迷ってるっていうわけでは、ないですよね」

「そうだね。
 …どちらにしても、今日はこのくらいで切り上げたほうがいいだろう。リリィを呼びに行こうか」

「はい」





(相変わらず、座りこんでぶつぶつ考え込んでいるリリィ)


(ふたりがそばに立って、やっと、存在に気付いたようだった)





「ありゃ?ふたりとも、どうしたの?」

「タイムリミットだよ、リリィ。…今日の解説は、もう終わり」



「えー!」



「ずいぶん長いこと考えてたみたいだけど…何か、思い浮かんだの?」

「まだなんにも…。
 いざ考え出すと、しっくりくるのが、思い浮かばない…」

「まあ、それは期限なしの宿題ということにしておこう。
 考えるのは自由だし、いつでもできることだからね」



「(…さりげなく、3回目を言ってるな)」



「そ〜うだね〜え…。宿に戻って、しっかりメモを取って、ぐたいてきに、やったほうが良さそう。
 ミルのあだななら、ぱっと思いつくだけでも、すごい数になるんだけど」

「考えついても、口に出したら駄目だよ。…たぶん、殴られる」

「いきなりしつれいな!
 …あれ?
 そういえばミルは?」



「今日は、結局、無断欠席だったようだよ」



「それじゃあ、『サボリ魔』!」



「あだ名から離れよう。
 それより、ミルのことだけど…。
 迷って着けなかったってことはないと思うから、少し心配だよ」

「ん…そうだね」

「帰って、ミルの部屋を確認してみよう」

「わかった!」





(勢いよく、立ち上がるリリィ)


(リリィの腰掛けていた、地面の隆起が、その勢いで、ごろりと転がった)





「ありゃ?」



「………」

「………」

「………」





(転がったものが、小さく呻いた)


(草と土にまみれ、地面に埋まっていたようなそれは、どうやら…人間のようだった)





「………う、ううーん……」



「ミルー!!」

「ミル!?」

「…ミルミル」





(土まみれのミル)


(それが、がばっと、上半身だけを地面から起こした)





「………」



「ミル!どうしたの!大丈夫!?」

「…なんだかさ。
 今、すごくおなかにやさしいあだ名で呼ばれたような気がする」



「それは気のせいだね」



「そうかなあ…」

「気のせいだよ。そんなことはどうでもいいさ」



「………」



「どうしてまた、こんなところに埋まっていたのかな?」

「埋まってたんですか、私?…何か、ちょっと、記憶が飛んでる…」





(頭をかきむしる、ミル)


(大量の土と切れ葉が、あたりに飛び散る)





「思いだしてきた…」

「ゆっくりでいいよ、ゆっくりで…」

「最初から、順に、話してごらん」



「えーと…。まずここには、転送装置で来たんです」

「うん、うん」

「来たのは、いいんですけど…。
 あたりが真っ暗で、何も見えなくて」



「真っ暗だったんだ。…僕とリリィが来た時は、少しだけ明かりがあったけど…」

「それは、私が光らせておいたんだ。君たちふたりが来る、少し前にね」

「…となると、ミルは僕たちよりもここに早く来てたってことになるね」



「んー、そうなんだろうね…。ほんとに、何にも見えなかったから」

「…それで、どうなったの?」

「うん。とりあえず進めば分かるかなぁと思ってさ、歩き出したんだよ」

「うん…」

「それで、歩いてたら…。
 いきなり、何かがすごい勢いで、ぶつかってきて」



「………」



「何がぶつかってきたのかは、分かったの?」

「いやー……全然、わかんなかった。真っ暗だったし」

「それは、しかたないよ。…ミル、ケガはしてない?」

「多分ないけど、土まみれで気持ち悪い…」

「大丈夫そうではあるけど、心配だね。
 宿に戻って、きちんと調べたほうがよさそうだ」

「あー、あとね…。何か、肩がしびれてる。
 まるで、何かにのっかられてたみたいな…微妙なしびれ」



「………」

「……それって」



「うりゃあ!」





(がつん、という鈍い音がひびく)


(アーウィンの顎に、リリィの頭突きが綺麗に入っていた)





「いたたたたたた」

「…うぐぐ……」



「なにやってんの、あんたら…。
 っていうかリリィ、今『うりゃあ』って言ってなかった?」



「いてててて、言ってないよそんなこと!
 いたた、いたいたいた、傷めてると、大変だからね!早く帰ろ!」

「あごが…あごが…」



「この子らは……まあ、いいか。
 エスティーンさん、すみません。話については、また今度に」

「…気にすることはないよ。早く戻って、見てもらうといい」





(暗転)










(薄暗い森の中、エスティーンがひとり、たたずんでいる)





「…熊か何かだと思って、全力でやってしまったけど。
 ミルだったのね、あれは」





(背後から、枝が伸び、エスティーンの頬をぽりぽり、とかきはじめた)





「過ぎたことだし、次からは気を付けるとしよう…うん」








(続きます)