MAGICA・キャラクターによるゲーム紹介
最終回「序文」
2010.12.2





難しいことなんか、考えていたわけじゃない。

ただ、納得がいかなかっただけなんだ。


逆らおうだなんて、考えていたわけじゃない。

ただ、私の話をきいてほしかっただけなんだ。


こんなことになるなんて、思ってなかった。


私は、どうすれば良かったんだろう?









都には、いくつもの通りがある。

通りに並んでいるものは、さまざま。
いくつもの住居があり、いくつもの商店街があり、いくつもの役所があり…
その中をたくさんの人が行き交っている。


その中の、商店街の通りのひとつ。
ここを、女が一人歩いていた。

長い、明るい色の髪を、うしろでまとめた彼女は…名前は、ミルといった。

通りの店先を、たまに一瞥しながら歩く。
歩くたびに、足首に巻かれた赤い布がかすかに揺れている。


ミルの手には、身の丈より少し短いほどの棒が握られていた。
それは、杖などではなく―恐らく武器であった。

彼女の足首に巻かれた赤い布は、都回りの警団員の身分を示す印だ。

足首の赤い布と、手に持った棒。
それが彼女を、周囲にも警戒任務中の警団員であることをうかがわせていた。


彼女の足は、商店街の外れ…その先にある居住区との間の、公園に向かっているようだった。


昼と言うには、まだ早いほどの時間の公園。
通りかかるものも、たまにあるくらいで…入ってくるものはない。

もともとが、家と家の間に出来たスペースを埋めるためのもので
庭と言っても差し支えないほどの広さしかない。

中には色の剥げかかったベンチと、多少手入れされた背の低い木が植えられているだけだ。


ベンチに座る、一人の男の姿がある。

手には分厚いノートがあり、また、手元で開かれているが男はそれに目を通してない。
公園の入り口のほうに目を向けているのだ。


入り口には、ミルが立っていた。








「お久しぶりです、ペイトンさん」


ベンチのそばで、ミルが口を開いた。
挨拶を受け、ペイトンと呼ばれた男は軽くうなずき、答える。


「ああ」


ミルが肩をすくめる。
彼は、あまり言葉が多いほうではないようだった。

それもミルには、今さら口に出すほどのことではないようで…
年齢はかなり離れているが、二人が気心の知れた間柄であることをうかがわせる。

次に口を開いたのは、ペイトンのほうだった。


「お前、長期休暇中じゃなかったのか?」

「そうですよ」

「その制服は?」

「有事に際して、迅速に動けるように。…冗談です。
 ペイトンさんの呼び出しですからね。面倒だから、これでいいやって思って」


着飾る必要なんて、ないですからね…と続け、にやにやと笑うミル。
皮肉を向けられたペイトンだが、表情は全く変わらない。慣れたやり取りであるらしい。


「なんとも勇ましい理由だな」

「そりゃどうも。…で、何の話なんですか」


ベンチには座らず、手すりに手を乗せながら質問する。
ペイトンは、ミルのほうへは目を向けず、手元の分厚いノートをめくりはじめた。


「ジョアン派を知ってるか?」

「ジョアン…」


ミルは、こめかみに握りこぶしを当て、考え始めた。―聞き覚えがある。


「教国の…かなり小規模の一派ですよね」

「そうだ」

「資料にあることしか知らないです。戦事派だってことしか」

「過去にも数件、警団で対処したことがある。お前の言う通り、小規模だからな。
 それほど大きな事件にはならなかったし、外ではほとんど名前も知られていない」

「はあ…」

「そのジョアン派が、どうやら最近になって活発になってきたらしい。…これを見ろ」


ペイトンは、ミルに紙を手渡す。調査内容をまとめた報告書のようだった。
南の教国の、特定地域の調査内容について書かれてある。


「…ご大層なもんで」


軽く、溜息を付くミル。
報告書の中に、大量の武器の搬入記録と、出所についての記載があった。


「大型の武器店でも、作るんですかね。…総合の」

「そういう理由ならどれだけ良かったことか」


ペイトンが吐き捨てる。


「…武器だけ運んでるわけじゃあ、ないか。大多数が、それですけど」

「お前には分からんかもしれんが」


遮られ、ミルはペイトンを振り返る。…ノートから、視線を外していない。


「一見関係ないものは、人造兵の素材だよ」

「……」

「搬送の、経路を見てみろ。
 わざわざ教国内部から主国の都市部に移して、もう一度教国内部に持ち込んでる」

「まあ、偽装ですよね」

「…こっちも、全容を掴んでるわけじゃない。恐らくそれは、まだ一部だ」


ミルが肩をすくめた。
ペイトンは、それきり黙って、手元のノートをめくり続けていたが…
そのペイトンに、報告書がそのまま突き出される。


「で?」


報告書を突き出し、ミルが促す。


「どういう理由があって私を呼んだんです?」


ミルの質問の意味は、そのままの意味ではなかった。

教国の戦事派は少数ではない。
このような事例は、それほど珍しいものではないのだ。

ミルはペイトンに、わざわざ休暇中の自分をこの用件で呼び出した理由について、聞いている。


「…その情報はな」


ペイトンは、ここで初めて、ミルの顔を見た。








「リリいいい!」


扉を開けるなり、ミルは怒鳴った。
部屋の奥から、どたん、という鈍い音が聞こえてくる。

ここは都の居住区の一角。ミルのアパートだった。
先ほどの怒声は、同居人に呼びかけたものである。


その、同居人が、ふらふらと奥からあらわれた。


「でっかい声…」


ミルと同じほどの年格好の少女。
どうやら先ほどの鈍い音は、顔を何かに打ち付けたようで…

額をさすりながら、その少女はミルのほうに歩いてきている。


「でっかい声は生まれつき!」


持ち帰った荷物をテーブルに置きつつ、ミルが声をかける。


「それにしても、でっかいよ。夢の中まで聴こえたよ」

「夢の中まで聴こえるように怒鳴ったからね」


「ひっどいなあ。なんで夢見てることまで知ってるの、でかけてたのに!」


「リリィはさ、隙があったらすぐ寝る子だからね!」


リリィと呼ばれた少女は、頭ごと、首を激しく振り回した。
少し絡んだ肩までの赤毛が、元の形に戻されていく。


「…隙を見せるほうが悪いんだよ」


不機嫌そうな顔を見せるリリィの頭を、軽くはたく。
頭のてっぺんに、少し残った乱れが、それで整えられた。


「まあまあ、おはよう。どっちにしろさ、寝てる場合じゃないんだよ」

「おはようサンデー。寝てる場合です。休暇中なんだもん」

「休暇は終わり。仕事だよ」


ミルの返答に、落ち着きかけていたリリィの表情が歪む。


「ペイトンさん、仕事の話だったの!?」

「あの人が、仕事以外の話持ってきたことなんかないでしょ。
 南に移動するから、結構大口だよこれ」


巨大な溜息をつくリリィ。

吐き出された息に前髪を吹き上げられ、ミルははっきりと顔をしかめた。


「じゃあ明日から、また仕事かあ」

「ううん」

「え?」

「南に行くって言ったでしょうが。今日の夜からだよ」


ぶっ、と吹き出す、リリィ。
反応を読んでいたようで、ミルは素早くリリィの頬に手を当て、押し抜いている。

口から吹き出された色々は、ミルには被害を及ぼさなかったようだ。

かなりの衝撃があったはずだが、すでに目は覚めていたようで、リリィも動じない。
すぐに、口を動かし始める。


「夜って、今、昼なのに!」

「何言ってんだ。もう夕方だよ」


窓辺に駆け寄る。日は、だいぶ、傾いていた。


そのまま固まるリリィに、ミルが後ろから声を掛ける。


「こっちの準備はもう済ませてあるよ。足も手配した。
 あんたの準備が出来次第、すぐ出発する。…ほら、なるべくいそいだ」


振り返ったリリィは、色のない表情をしていたが―状況は理解したようで
自分の部屋に向かって、駆け出していく。

その様子を見送ったあとで、ミルは…部屋の椅子に、腰を下ろした。

テーブルの上に置いた荷物。
それに目をやりながら…昼前のやり取りを思い返す。








「その情報はな」


ペイトンが、急にミルに視線を送る。
この様子が、この男の一種の覚悟のようなものを表していることをミルは知っていた。

少しだけ、緊張する。


「諜報部が、直接調査を進めていたわけじゃない」

「……」

「搬送していた連中が襲撃を受けたことがきっかけで、こちらに情報が伝わったんだ」

「襲撃?」

「そう、襲撃だ」


漠然とした、嫌な予感―ミルは、視線を外し、うつむいた。


「搬送の指揮を執っていた連中も、ジョアン派の人間だったようだがな」

「だったようだがなって、何なんですか。分からないんですか?」


沈黙。

ややおいて、ペイトンが答える。


「生存者が居ないからだ」

「……」

「その事件を、俺が調査してきたんだよ。
 現地に着いた時には、生存者1名、重傷だった。
 その日のうちに、生存者なしに報告内容が変わったが…残した話だけは聞いてある」

「…どういう内容だったんですか」


うつむき、額に手を当てたまま、ミルが尋ねる。


「生存者は、『槍を持った男に襲われた』という内容のことを、言い残している」


「―!」


嫌な予感が、具体的になった。
ミルの表情が歪む。ペイトンに伝えられた言葉に、心当たりがあるのだ。


「……ペイトン、さんは」


ようやく、言葉を絞り出す。


「スレイが、この襲撃の犯人だって、言いたいんですか?」


スレイ。

この人物の名前は、ふたりにとって特別な意味を持っている。
だからこそ、ミルがここに呼ばれている。

ペイトンは答えた。


「槍を使う男など幾らでもいる」


ほんのすこしだけ、間を空け…ペイトンの言葉がつづく。


「だが、あの男が手段を選ばなくなっているのは、お前が一番分かってるだろう」


激しく、舌打ちするミル。反論はできなかった。
確かに、それは自分が一番分かっていることだ。


「本部への報告は、これからするところだ。
 緊急事態として、お前を現地に派遣したと報告書に加えることも、まだ、できる」

「…それが本題ってことですか」


ああ。
ミルは背中を向けたままだったが、そう言って、ペイトンは律儀に頷く。


「どうする?」


ミルは天を仰いだ。




難しいことなんか、考えていたわけじゃない。

ただ、納得がいかなかっただけなんだ。


逆らおうだなんて、考えていたわけじゃない。

ただ、私の話をきいてほしかっただけなんだ。


こんなことになるなんて、思ってなかった。


私は、どうすれば良かったんだろう?


私は、どうしたら良いんだろう?




―決まってる。

行くしか、ないんだよねえ。








部屋の奥から、駆ける音が聴こえてくる。
リリィの準備が終わったようだ。

立ち上がり、テーブルの上の荷物をひっつかむ。


「おまたせ!」


リリィが駆けてくる。なんとも、騒がしい。

自分たちの仕事といえば、必ず、荒事を含む。

それは警団に所属する二人には、当たり前のことで…
リリィにも、この先すぐに、それが待ち構えているということは分かっているはずだ。

だというのにこの騒がしさ。
苦笑する、ミル。

それと同時に、この騒がしさにある意味での頼もしさを感じている自分に気付く。


それも、仕方ないか。


「さってと、それじゃあリリィさん。気合入れていってみますか」

「はいよ!」


拳を打ち合わせ、アパートを出る二人。


日は、すでに落ちかかっていた。









(暗転)





「………」

「………」

「………」



「…っと、いうことで」



「RPGツクールDS小企画最終回『序文』、これにて終了っ」

「ぱちぱちぱち!」

「ぱちぱちぱち…」



「念のために、説明だけ。
 最後の締めとして、この『MAGICA』というお話の…
 始まりに至る経緯を、序文として、ここに掲載いたしました」



「ゲーム本編では、このあと…私とミルが目的地に到着したところから、はじまるね」

「そうなってるね。
 ゲーム内では、私たちの会話のみでシーンが構成されてるから
 ちょっとまた、これとは雰囲気が違うんだけど」

「僕は途中参加だったから、序文に出てこないのは分かってたけど。
 …こうやって見てみると、出てみたかった気も、ちょっとするな」





(ミルとリリィ、顔を見合わせる)


(揃って、アーウィンの顔を凝視)





「アーウィンが」

「じこけんじよくに目覚めている」



「…やめてよ」



「ふたりとも、あんまり彼をいじめるのは、やめよう。
 庇うわけではないけれど、本来は、最後の挨拶のために
 私たちは出てきているんだからね」



「う…はい」

「はーい」



「(助かった…)」



「さて、それじゃあミル。
 主人公として、締めの言葉をお願いするよ」



「了解です」

「ぱちぱちぱちぱち!」

「ぱちぱちぱち」



「予定してたよりも、長くなったりもしたんだけど。
 なんとか、無事終了です。皆さん、おつかれさまでした!」



「おつかれさまでした!」

「お疲れ様でした」



「それと、読んでくださった方にも。
 …おつかれさまでした。ありがとうございます!」



「ありがとうございます!」

「ありがとうございます」





(ミル、リリィ、アーウィンの3人、深々とおじぎ)





「それでは…以上をもちまして。
 RPGツクールDS小企画、『MAGICAゲーム紹介』!
 全工程終了とさせていただきます!」





(リリィとアーウィン、拍手)


(少し遅れて、ミルも拍手に加わる)







(暗転)





「ふうう…。終わった終わった。
 やーっとこれで、少しはのびのびできるよ」

「ミルはほとんど交代なしだったからね…お疲れ様」



「(ああ、そうだ。…休日をあげたということにしておこう…うん)」



「ねえねえ」

「うん?なにかな」

「これまでのってさ、あくまで、ゲームの紹介なんだよね」



「………」

「…今さら何言ってんの、あんたは。最初からそう言ってたでしょ」



「ちがうんだよ!それが分かってなかったわけじゃなくてねえ…」





(リリィ、地団駄)





「そうじゃなくて、紹介したっていうことで、ききたいんだよ」

「言ってる意味わかんない。なにがききたいの」

「紹介の、内容のこと?」



「だからー、ちがうって!これってゲームの紹介でしょ!?」



「うん…紹介だよ」



「ゲームの本編は、別にあるんだよね!?」



「…そうだね」

「それがなかったら、紹介なんてしないって」





(首をかしげる、リリィ)





「本編の公開はないのかな?」



「………………」



「………………」





(完全な、沈黙)





「…アーウィン」

「…うん」

「連行して」





(リリィの両手を掴む、アーウィン)





「えええ!?ちょっとまって、なにこれ!」



「ごめん、リリィ。…さすがにこれは、僕も擁護できない」

「最初にさあ〜、問題発言は厳禁って、言ったじゃなぁ〜い〜」



「なにその歌!怖い!
 ちょっと、エスティーン!!たすけてえーー!!」



「………」





(3人、退場)


(その場には、エスティーンのみが、残される)





「最後の最後に、またこれとは…。
 情けないことだなあ。本当に、もうしわけない。
 もしも、機会が廻れば…」





(エスティーンの姿のみを残し、暗転)





「みんな、またここで会いましょう」








(これにて終了です)


(お付き合い、ありがとうございました)